世界遺産の景観問題
熊野古道の大雲取越え(那智勝浦町—熊野川町)、小雲取越え(熊野川町—本宮町)に、世界遺産登録以前に立てられた、前衛的な案内看板が論議を呼んでいる。古道を案内する語り部は「古道にそぐわないという声がある」。一方、暗い植林地の中に現れる明るい色彩に好意的な意見もある。町は「古道整備や地域おこしに取り組んでいる人が善意で立てたもの。強制的に撤去できない」と複雑な心境だ。
(中略)
どちらも木製で高さは60センチ前後。しかし、極彩色の色使いや独特なタッチで目を引く。
この道標は3年前、熊野川町在住の女性芸術家(44)が製作した。女性は13年前に同町に移住して以来、これまで古道整備や地域おこしなどに熱心に取り組んでいるほか、遺産登録をきっかけに語り部としても活動している。
胴切坂周辺の植林地は、遺産登録と前後して間伐されて明るくなったが、長年、昼間でも暗い坂だった。そのため、目立つ色合いや自然素材にこだわり、色も年月がたてば風化して自然になじんでくることも考えて作成したという。
また、賽の河原地蔵前の看板は、何人もの散策者から「見過ごしてしまう」と聞いたことから立てた。
女性は「世界遺産にそぐわないという声が多ければ撤去します」と話しながらも寂しそう。
(後略)
──「紀伊民報フラッシュニュース 050403」より引用
今日は紀伊民報からのネタ。
「市民が善意で立てた道標が景観を損なっている?」というのがテーマです。そのデザインの善し悪しに関しては、本エントリーでは論じないので、これを評価したい方はそれぞれ引用元を見て、独自に判断して下さい。
文化財保護法上、熊野古道に看板を設置する場合には文化庁長官の許可が必要で、市町村景観条例では、古道の両脇50m以内への設置に関して町長の許可が必要とされています。こう書くと、この道標が「看板」にあたるのかどうかという議論が成立しそうな感じがします。しかし(町の条例が見つからないので未確認なのですが)町条例ではこれらと別に、指導標・案内板の設置に関しても町長の許可が必要と定めているらしい。(この芸術家氏が作った道標はこの条例以前に立てられたものだそうですが、その話はこの際おいておきます。)
さて、ここには皆さんお気づきの通り、大きな問題があります。
それは、「地域住民が、そこを訪れる来訪者のために道標を立てる」という、主体的に歴史資源と関わろうとする行為によって歴史景観に与えられた影響が問題になっているという点です。(なんか日本語がヘンだな、、、こういうのを上手に書けるようになりたい編集長です。)
確かに、熊野古道は世界遺産。歴史遺産として保全していかなければならない環境にあります。一方、観光客に快適な散策環境を整備することも歴史遺産の活用という面(あるいは歴史遺産ツーリズムの観点)から見て必要です。
編集長の結論を先に言えば、それが商業広告物でない限り、大いにやったらいいと思うのです。
この際デザインの善し悪しは問題ではありません。デザインの良否を決定できる権限を持った主体や、統一のルールなりが不在である以上、住民が能動的に地域環境を改善していこうという姿勢をこそ高く評価すべきであり、これを禁ずるのはいかがなものかと思うのです。
実は和歌山県・三重県・奈良県では3県で、看板標識デザインの統一基準を作成中だとか。これがあれば少しは違ったのかもしれません。モデルが示されていれば、この芸術家氏だってその基準から大きく外すようなことはしなかったに違いないと思うのです。条例なり基準なりが規制すべきは悪意(あるいは無意識)の第3者であって、このような善意の当事者を糾弾するための道具に使わなくてもいい。それでもルールはルールとして守らなければいけないのなら、町長なりが、バンバン許可しちゃって下さい。
町は「遺産であっても古道は町民の生活道。町民が何もしてはいけないという意識をもつようになっては、地域にとってかえってマイナス。町で強制的に撤去できない」とコメントしているそうです。まさにその通りで、住民が手を入れることを否定した瞬間に、世界遺産は住民の手を離れた孤高の存在になってしまうのです。それは地域住民にとっても、世界遺産にとっても不幸なことだとは思いませんか?
もっと柔軟に考えたらいい。ルールが必要なら皆で作ったらいい。町も県も、もっともっと地域住民の力を信じて、大いに関わってもらったらいいんです。地域住民が歴史遺産とどう関わることが良いのかという視点をプログラムに内包していない限り、世界遺産の保全も絵に描いたモチにしかなりえません。
「指導する立場の県教委は人形型の道標について「古道を訪れる人の話も聞いて、地元の良識で判断してほしい」と町に判断を任せる方針」だとか(なんだかちょっと及び腰ですね(笑)。でも、地元で考えたらいいと思いますよ。ホントに。
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